16.スプリットヨーク(Spallone Smezzato)に見る、良いシャツの条件

今回は「良いシャツの見分け方」の一つとして、シャツのディテールにおいて非常に重要な「スプリットヨーク」についてお話ししたいと思います。

スプリットヨークとは

イタリア語では「spallone smezzato(スパローネ スメッツアート)すなわち「半分にされた肩」と呼ばれます。その名の通り、背中のパーツである「ヨーク」が真ん中で2つに分かれている仕様のことです。 高級なクラシカルシャツなどでよく見かけるこの仕様は、デザイン的にも少し凝った印象を与え、非常に人気があります。しかし、単なるデザインではなく、実は機能面において非常に大きな意味を持っています。

ハンガー上の「ねじれ」で気づく機能性

私自身、若い頃は「スプリットヨークはそこまで必要ないのでは?」と考えていました。
しかしある日、ハンガーに吊られたシャツを見て、その認識が一変しました。スプリットヨークのシャツと、そうでないシャツの違いに驚かされたのです。

ぜひ写真をご覧ください。(※赤いシャツがスプリットヨークのものです)

シャツというのは、全ての重みが「肩」にかかります。その結果、両肩に負荷が集中し、ねじれや型崩れ、シワなどの原因になりやすいのです。 通常の一枚ヨーク(スプリットではない仕様)のシャツをご覧ください。

最も比重のかかる「肩線」の部分に、生地のバイアス(斜めの繊維方向)が入ってしまっています。この状態で長期間ハンガーに吊るしておくと、生地が伸びてねじれが起こり、シワや型崩れにつながってしまいます。

一方で、スプリットヨークは生地の地の目(繊維の方向)を肩のラインに合わせて調整できるため、この「重みによる劣化」を防ぐことができるのです。

着心地とシルエットへの影響

また、スプリットヨークにすることで、逆に「背中心」の部分には若干のバイアスが入ります。
実はこれが大きなメリットを生みます。背中心のバイアスが伸縮性を持ち、背中の丸みを自然と補うことができるため、結果として美しいシルエットにつながるのです。

これは長年シャツを扱ってきたプロの視点でないと気づかないほどの僅かな差かもしれません。しかし、シャツのシルエットに対して、少なからず良い影響を与えてくれる重要な要素です。

伝統的なデザインに隠されたメリット

余談ですが、スプリットヨークには他にも実用的なメリットがあります。 背中心の縫い合わせ部分にごくわずかに「ダーツ(つまみ)」を入れることができるため、場合によっては「ツキジワ」や「猫背」などに合わせた補正を行い、悩みを軽減させることも可能です。さらに、サイズによっては一枚ヨークよりも生地の要尺(必要な量)がかからないケースもあり、生産面での選択肢としても大きなメリットをもたらしてくれます。

「長く続く伝統的なデザインには、これほどまでに深い意味があるのか」と、スプリットヨークの奥深さに、改めて日々感銘を受けている今日この頃です。