今回から、良いシャツを見抜くための「縫製の理論」についてお話しさせていただきます。
まず、最も重要なポイントとなるのが、そのシャツが「本縫い(織り伏せ縫い)」で仕立てられているかどうかです。 普段から仕立ての良いシャツを着慣れている方にとっては当たり前のことかもしれませんが、「本縫い」という言葉に馴染みのない方も多いのではないでしょうか。実は、市場に出回っている既製品の多くは、本縫いではなく「二本針」や「ロック始末」で処理されていることが多々あります。
そもそも、布というものは切りっぱなしの状態では端の糸がほつれてきてしまいます。そのため、端がほつれないように加工を施す必要があります。シャツの縫製で主に使われるのは、以下の3つの手法です。
本縫い(巻き伏せ縫いなど)

ロック始末
二本針

本縫いの重要性をお伝えする前に、まずはそれ以外の縫い方について触れておきましょう。 「ロック始末」は、生地の端をかがり縫いすることでほつれを防ぐ、一般的な処理方法です。 次に「二本針」ですが、これは表から見ると本縫いのように見えます。しかし、裏側を見ると糸がループ状(鎖状)になっており、構造が全く異なります。
では、なぜ二本針ではいけないのでしょうか。 二本針は機械を使って2本の針で一度に縫い上げるため、生産効率は良いものの、細部の美しさや正確さに欠ける傾向があります。職人の高度な技術を必要とせず、機械的に縫われるため、どうしても「工業的な仕上がり」になりがちなのです。
対して「本縫い」は、一度縫った生地をひっくり返し、さらにステッチをかけるという手間のかかる工程を経ます。何重にも細工を施すことで、初めて美しく、そして丈夫なシャツが仕上がるのです。

