17. 良いシャツの見分け方 袖の輪付け(後付け)について

今回は「袖の輪付け」についてお話しします。
袖の輪付けは「後付け」や「セットインスリーブ」とも呼ばれる縫い方で、シャツ好きの方なら注目するポイントでしょう。
よく、ハンガーに吊られているシャツの袖をぴらっとめくって、チェックしている姿を幾度もお見かけします。
私自身もしているかも知れません。

シャツは、ジャケットやパンツと比べて、工夫の余地があまりありません。
ジャケットの場合は、芯地を入れたり、ハ刺しをしたり、厚みがあるためクセ取りをしたりと、様々な技法で美しいラインを作ることができます。
しかし、シャツは生地が薄いため、同じような工夫をすると引き攣れや無理が生じ、日々のアイロンにも耐えられなくなってしまうことがあります。

そのため、シャツにはシャツなりの工夫が必要です。
その代表的な工夫が「輪付け」です。
輪付け(後付け)とは、袖と身頃を別々に作り、ぐるっと一周縫い合わせて取り付ける方法です。一見簡単そうに思えるかもしれませんが、この一周縫う作業は非常に難しく、寸法がぴったり合っていないとどこかに影響が出てしまいます。そのため、輪付けができる職人は限られており、高級シャツの代名詞的な仕様となっています。

なぜ輪付けで袖を付ける必要があるのでしょうか?これは人体の構造と深く関係しています。人の腕はやや「くの字」に曲がり、少し前に角度がついて肩が成り立っています。この角度に合わせるため、袖の付け方も若干前に角度をつけて取り付ける必要があります。
こうすることで腕の角度と合い、理論上は着やすいシャツになります。

ただし、着心地が劇的に変わるわけではなく、気づかない人も多いでしょう。
また、輪付けにするとコストが格段に上がるため、そのコストに見合った着心地が得られるかは微妙なところです。
さらに、脇の下の縫い目が少しずれることで厚みが軽減され、高級品として喜ばれる側面もあります。
仕様としてはデメリットはありません。

最高級のシャツを作る場合は必ず輪付けにしますが、コストとの兼ね合いで私は輪付けを選びません。
この手のシャツは、希少性も相まって、輪付けによって値段が大きく上がるため、シャツを購入する際はコストパフォーマンスが非常に悪いことをご了承の上でご検討ください。