19.なぜシャツに「背ダーツ」が必要なのか?美しいシルエットの正体

今回は、シャツの「背ダーツ(背中の2本のつまみ縫い)」についてお話しします。

近年、「ダーツは必要ない」という意見を耳にすることがありますが、正直なところ、私はこの風潮を非常に危惧しています。
服作りに携わる人間であれば周知の事実ですが、衣服には形や手法を変えながら、多くのダーツが組み込まれています。
これは男性のシャツに限らず、あらゆる衣服において「人体の丸みを補う」ために欠かせない要素だからです。

一般の方からすると、背ダーツは「サイズ調整のために後から絞ったもの」や「帳尻合わせ」のように見えるかもしれません。しかし、それは誤解です。 ダーツは、人間の複雑な曲線に合わせて美しいシルエットを作り出すために、必然的に入れているのです。

■ 論より証拠:2枚の写真の違い

百聞は一見に如かず。まずはこちらの2枚の写真をご覧ください。 これは同じ寸法で作られた仮縫い(トアル)の比較写真です。片方にはダーツを入れ、もう片方には入れていません。
どちらが、ダーツ入りかは、もう説明は必要ないですよね(下がダーツ入り)。

ご覧の通り、ダーツを入れていない方は脇線に無理がかかり、引き攣れ(シワ)が起きています。
また、ダーツを入れることで、背中のラインがきれいにしっかりと出て、美しいフォルムを形成しています。一方、ダーツを入れた方は無理なく、きれいなシルエットが出ています。これがダーツの効能です。
何と言っても、この「立体的で、美しいフォルムを作り出す」ことが、ダーツの効能です。

■ 脇線だけで調整することの弊害

背中にダーツを入れない場合、胸囲と胴囲の差(ドロップ寸)をすべて「脇線」だけで処理しなければなりません。その結果、生地に歪みが生じ、シャツ全体が引き攣れてしまうのです。 背中の最もくぼんでいる部分で適切にダーツを取ることで、この歪みを解消し、体に沿った美しいラインが生まれます。

シャツでは背中の2箇所ですが、より立体的なジャケットやレディースの服では、さらに多くのダーツが使われています。 つまり、ダーツこそが、平面の布を立体の人体に美しく沿わせるための「最重要項目」なのです。